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『ポケットのラブレター』

――離婚の際、高額の慰謝料を受取るためには浮気・暴力などの証拠を確保しておくと有利です。
浮気の証拠といっても、ホテルから2人で出てくる写真を写すようなことはプロの探偵に頼まないと難しいかもしれません。しかし、いろんな所に証拠は転がっているものです。ご主人のポケットに2人分のディナーのレシートは入っていませんか? 携帯・スマホのメールやラインでのやりとりは宝の山です。最近ではフェイスブックに不倫相手と仲良く撮影した写真を載せている人もいますから、配偶者のフェイスブックだけでなく不倫相手のものも要チェックでしょう――
「ふーん、なるほどね」典子はパソコンの画面を見ながらつぶやいた。
 結婚して8年、夫の芳人とはすれ違いが多くなっていた。
「最近芳人の帰りが遅いのは、本当に仕事が忙しいせいなのかしら……」
 そんなことを考えていると、玄関のインタフォンがなった。
「あら、今日は早いのね」
「あぁ」
 芳人は返事をするのも面倒くさそうにネクタイを外し始めた。
「ごはんにする?」
「いや、食べてきた。風呂にしてくれ」
 典子は風呂の支度をして、パソコンに向かった。夫はテレビドラマを無言で眺めている。しばらくすると風呂が沸いた。夫は何も言わずに、スーツを脱ぎ捨てて風呂に入っていった。
 典子は、スーツをハンガーに掛けようとして、先ほどのホームページの記事を思い出した。スーツのポケットに手を入れると1枚の紙が出てきた。小さなメモ用紙に1文字だけ「あ」と印字されている。
(何なの、これ)典子は不審がりながらも、何かの証拠になるかも知れないと思って、メモ用紙をこっそり電話機でコピーしてから夫のポケットに戻した。
 翌日。典子は夫が風呂にはいるのを待ちかねるようにしてポケットを探った。
予想通りと言うべきだろうか。「い」と印字されたメモがあった。
(あいうえお? いやそんなわけないわよね。明日はきっと「し」に違いないわ)
 そのようにして6日がたった。メモ用紙のコピーは、「あ」「い」「し」「て」「る」「の」と揃った。
(やっぱりね。でも、これだけでは相手が分からないし……)典子は浮気を確信しながらも、もう少し様子を見ることにした。
 翌日のメモは「り」だった。
(あいしてるのり? どういうこと?)典子はこの文章がどう続くのか、浮気に対する怒りも忘れて、興味を感じ始めていた。
 更に翌日、メモは「こ」。
(あいしてるのりこ、えっ! そう言えば今日は結婚記念日じゃない。このメモは芳人から私へのメッセージだったのね)。
 典子は、風呂から出てきた芳人に抱きついた。
「ありがとう。メモ、全部見ちゃったわよ。あなたがこんなに愛してくれていたなんて……」

 芳人は、突然の妻の行動に驚いて、焦る頭で考えていた。
(明日からの「ん」「し」「て」のメモをどうやって隠そう)。
                                         (了)


公募ガイドで阿刀田先生のコンテストが始まるようです。
阿刀田高のTO-BE小説工房
で、久しぶりに書いてみたのですが、いつの間にか締切が過ぎてしまいました。
仕方ないので、ここで公開します。
テーマは「ポケット」と「浮気」。
普通に考えると、僕のようにポケットから浮気の証拠が出てくる話になると思うのですが、そうしない方がいいのかもしれません。

ともあれ、次は提出できるように頑張ります。

【2月25日追記】「ゆっくり生きる」のはるさんが朗読してくれました。
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『見えないものを売るお店』

樹立社創作アイテムショップ・コンテストの応募作品です。
お題は「あなたは今、不思議なお店に勤めている。そこで売られている不思議な商品を5つあげ、5センテンス以内で解説しなさい」。

【苦労】いろんな人が苦労を売りに出している。楽をしたい風潮の下、売りたい人は多いが買いたい人が少なく、なかなか売れない。ずっと取り置かれて年度を越したような「取り越し苦労」も多い。たまに「若いころの苦労は買ってでもせよ」という言葉を真に受けた若者が買いに来たりするが、それで売れた人はラッキー。

【アイディア】いろいろなアイディアを売っている。いいアイディアは主人が使ってしまうので、売り物はイマイチなのが多い。実際、このアイディアもそこで買ったのだけど……。

【愛情】一応陳列されているが買う人はほとんどいない。今の時代、金さえ出せば、よそでも簡単に手に入るのだから。

【怒り】草食系男子が多い現代、怒りのパワーを買ってでも手に入れようとする人も多く、隠れた人気商品になっている。ただ、最近は買った客が「倍返しだ!」と言って店員に怒りをぶつけてくることが多いので、店としてはあまり売りたくない商品。

【魂】魂を売りに出して、魂の抜け殻のような顔をしている売り主が多い。買い取って悪魔との取引に使おうとする人もいるが、売りに出されるような魂はろくでもないものが多くて、たくさん集めても願いを叶えてはもらえない。三つ子のものを揃えたら長生きできるという噂も。

応募はわずか7通だったそうです。
出題の意図が少し分かりにくかったせいでしょうか。
素直に受取るとドラえもんの道具みたいな話になりそうですが、(さすがにそれはないかな)と思って、このような作品になりました。
江坂先生の好きな言葉遊びもちりばめてみたのですが、残念ながら入選はならず。
入選作と比べると少しひねりが足りなかったようです。
(半沢ネタは出した時はタイムリーだったのですが、今読むとかなりハズカシイ)
ともあれ、いくらなんでも応募7通は寂しすぎます。
皆でショートショートを盛り上げましょう!

『2013年』

 ようやく決まった再就職、初出勤の金曜日のことだ。昼休みに山元さんが誘ってくれた店は、黄色と黒のツートンカラーで統一されていた。
「ここは困ります。私は祖父の代からのジャイアンツファンですから」僕が拒むと山元さんは大げさに驚いた。
「そ、そんなこと、社長の耳に入ったらクビやで。っつうか、おまえ入社試験で聞かれたやろう」
「えっ? そう言えば雑談のように、阪神は好きかと聞かれました」
「で、どない答えてん」
「困りましたけどね、気を悪くさせてもいけないですから、無理矢理、阪神というのは半身浴のことだと思い込んで、はい、と答えたんです」
「ほな、これからもその調子で話をあわすんや」
「それはむちゃですよ。第一、野球と風呂で話があう訳ないじゃないですか」
「そらそうやなぁ……」
「うちの会社って、そんなふうだったんですか。だったら山元さんも」
「安心せい。俺は野球には興味ないねん。まあ、社長と話を合わすためにスポーツ紙くらいは読むけどな」
「そうなんですか。いや、阪神なんて弱いチームよく応援しますよね。まったく、マゾヒストとしか」と、そこまで言ったところで僕は山元さんの頬がヒクヒク動いているのに気付いた。
「…………なんて言う巨人ファンもいますが、私はそうじゃありませんので」
 僕は必死になってごまかした。何だかんだ言っても関西人だからな。くわばらくわばら。
「まぁ、社長の前ではそんなごまかしは通用せえへんで」
「すみません。あっ、そこのお店はどうですか?」
 僕は中華料理屋を指さして話を変えた。
 店に入ると、山元さんも阪神の話を続けなかったので、その話はそこまでで終わった。
 
 週明けの月曜日。入社式が行われるということで、僕ら新入社員は講堂に集められた。自己紹介の内容を考えていると、全員が揃ったようで社長が話し始めた。
「新入社員の皆さん、入社おめでとう。これからは私たち一丸となって事業に邁進しなければなりません。まずは団結の証をたてようではありませんか。皆さん、お立ちください」
♪ちゃんちゃっちゃちゃんたーらーらったったったったどこどっど♪
(こ、この曲は……)言うまでもない。六甲おろしだ。僕は腰を下ろそうとしたが、周りの視線が気になって、固まったように体が動かない。そういえば小学校の卒業式で君が代斉唱のとき、座っていた先生がいたなぁ。あの時は、ハレの卒業式にそんなことしなくても、と少し嫌な気持ちになったけど、どれだけ勇気がいったことだろうか。
「おぅ、おぅ、おうーはーんしーんタイガース」曲はサビで盛り上がっている。隣の奴が大声で歌っているのだが、これがまた音痴で……。
(座りたい、座りたい。長嶋さん、王さん、申し訳ありません。川上さん、V9戦士の皆さま…………)僕は自分の弱さが情けなくて、涙が出そうになった。
 と、その時、専務がやってきて、僕の口元をチェックしている。
「社長、こいつ、口閉じたままでっせ」
「ちょ、ちょっと待ってください。喉がかれて休んでただけです」僕は大げさに喉をさすって前屈みになった。
 専務は不審そうにしながら僕の前でじっと見ている。
 いつまでも喉をさすっているわけにも行かない。死んでも歌いたくない歌ではあるが、僕には妻と2人の子供がいるのだ。仕方なく口を動かしはじめた。
「おぅ、おぅ、おうーよーみうーりジャイアンーツ」小さな声で歌ったのだが、専務は僕の口元を見て気付いたらしい。
「こいつ、阪神タイガースのところ、読売ジャイアンツって歌っとったで」大騒ぎになり、入社式どころではなくなった。
 それからは大変な退職勧奨が始まった。
「わが社は社運をかけて事業に取り組んでいるんじゃ。その団結を乱す社員は辞めてもらうしかないやろう。それでも辞めんっちゅうんやったら隔離部屋行きや」
「そんな……。思想信条は自由のはずです」
「何が思想信条や。巨人みたいなチームを応援しといて、思想もへったくれもあるかい。仕事は闘いなんやぞ。うちがA社と激しいシェア争いしとる事、知っとるやろう。A社は巨人ファンばかりらしいけど、お前もしかしてスパイなんとちゃうやろうな」
「そんなわけないですよ。もしスパイならもう少し上手く隠しますって」
「そらそやな。分かった。お前、これから阪神ファンになれ。そしたら隔離部屋は許したる」
「えー!?」
 僕は悩んだ。愛するジャイアンツを裏切ることなどできるはずもないが、家族を見捨てることもできない。25社の面接に落ち続けてやっと潜り込めたこの会社を辞めたら、僕たち家族は路頭に迷うことになる。
「ちょ、ちょっと待って下さい。お腹が……」僕はお腹を押さえながらトイレに駆け込んだ。激しいストレスがかかると、いつも下痢をしてしまうのだ。
 個室で下痢をして、ウォシュレットを使って、水を流してから気が付いた。
(この便器は王シュレットだ!)
 便器が王さんの顔になっていて、王さんの口からウォシュレットの洗浄水が出る。バラエティー番組で使われて、人格者の王さんを激怒させたという忌まわしい代物だ。
 僕は王さんの顔にうんこをしてしまったのだ。僕は便器の王さんに涙を流しながら土下座した。も、申し訳ございません…………。それにしても阪神を応援するだけならともかく、王さんをこのように侮辱するとは。立ち上がって手を洗いながら鏡を見ると、いつもより少しだけりりしくなった僕がいた。
(一人でも戦おう。勝ち目はないだろうが、信じるもののために)
 僕はポケットから鍵を出して鏡を引っかいた。出来るだけ大きく、力を込めて、YGと。

(了)

以前のブログでは政治的な発言は控えることをルールにしていました。
しかし、最近「黙ってはいられない」と思うことがあまりに多くなりました。
今回はこの記事。
君が代斉唱:教職員の口元「確認を」 大阪府教委が通知

作品のタイトルはもちろん「1984年」のもじりです。

【9月22日追記】
コメント欄で川越さんに教えて頂いた「茶色の朝」読んでみました。
文章15頁ほどの短い寓話ですが、ファシズムと私たちの関係を鋭く描いた作品。
高橋哲哉氏のメッセージも、今の世相の下、心に響きます(昔の私なら説教臭いと感じたでしょうが)。
私からもお勧めします。

『寝言』

(もう耐えられない。あいつと別れなければ、俺の人生は終わりだ)
 ずっと前から抱き続けてきたこの思い。俺は、妻に聞かれないように小さく独りごちた。
 結婚当初の可愛らしかった妻はもういない。いるのは俺を給料の運び屋だと思いこんでいる太った女だ。そいつは炊事と洗濯を俺に命じて、自分はソファで下らないバラエティ番組を見ている。命令に逆らえばギャンギャンわめくし、だからといって俺が怒って手を出すとたちまち警察を呼ばれちまう。
 俺はあんな奴に人生を台無しにされたくはないのだ。だが、どうする?
 妻を殺すのはかまわないが、それで今の囚人のような生活から本物の囚人になってしまうのでは洒落にならない。
 だが妻が離婚に応じてくれるだろうか。…………それは無理だ。妻は俺を憎んでいるし、俺が死んだり重度の障害を負ったりしたら喜ぶに違いない。そうなれば保険金が入ってくるのだから。だが、離婚はしてくれまい。奴は俺の給料をあてにしているのだ。
 強制的に離婚するのが難しいってことは学生時代に授業で教わったことがある。確か民法に規定があって、いくつかのケースのどれかにあてはまらないと離婚できないんだよな。少し調べてみるか。
 俺はトイレに六法を持ち込んで民法の頁を開いた。
(あった、あった)民法770条だ。不貞行為、悪意の遺棄、生死不明、強度の精神病……。(そうだ!)
 俺はいいことを思いついた。寝言だ。寝言に返事をすると脳にストレスを与えて、相手の気が狂ったりすると言うではないか。妻はしょっちゅう寝言を言うのだから、完全犯罪が可能かもしれない。
 その日の夜のことだ。コーヒーを飲んで眠気を覚まし、俺は眠ったふりをしながら妻の寝言を待った。しかし今日に限って妻は静かに寝ている。
(どうしたんだろう…………何だか俺も眠たくなってきたなぁ。ここはひとつ、こちらから誘い水を差してみるか)
「今日は忙しかったなぁ」
 すると妻は寝返りを打って口を開いた。
「このお皿、汚れが落ちていないじゃない」
 どうやら夢の中でも俺をこき使っているらしい。
「ごめんごめん。ちゃんと洗い直すから」
「洗い直せばいいってものじゃないわよ。本当に。で、香代子さんとはどうなったの?」
 いきなり浮気相手の名前が出てきたのでびっくりした。妻が彼女とのことを疑っているのは知っていたけど……。まったく、寝言は脈絡がないからなぁ。
「どうもなっていないよ。ただの取引先の人なんだから」
「怪しいわね。この間、あなた寝言で香代子さんの名前を言っていたわよ」
(ビクッ)
「そんなことないよ。愛しているのはお前だけなんだから」
 何だか旗色が悪くなってきたなぁと思っていると、また話が変わった。
「仕事の方はうまく行っているの」
「ああ、何とか頑張っているよ」
「あなたは人がいいから仕事を押しつけられたりするのよ。無理はしないでね」
(なんだか急に優しくなったなぁ。昔の彼女みたいだ)俺はそんなことを思いながらも「ありがとう」と答えた。
「最近ストレスがたまり気味だから心配していたのよ。大丈夫なの?」
「あぁ、そういえばそうかもしれないな。でも大丈夫だよ」
 俺はうれしくなった。寝言とはいえ、妻は俺のことを心配してくれている。俺は彼女のことを誤解していたようだ。こんな優しい彼女の気を狂わせようなんて、どうしてそんなひどいことを考えてしまったのだろう。
 俺は妻を強く抱きしめて言った。
「すまなかった。君が俺のことをそんなに愛してくれていたなんて」
 妻は俺を汚らわしいもののように振り払って言った。
「なんだ、起きてたの……」
(了)

小説現代5月号の予選通過作品です。
精神病を扱う作品というのは取扱注意なのかな、とか思っていました。
「気が狂う」という表現はアウトなのか、とか……。
しかし、予選通過したところを見るとこの程度ならOKなのでしょうかね?
それとも、予選通過にとどまったのはそのせい???

【追記】はるさんが朗読してくれました。

『因果の流れ』

一日目
 会社からの帰りに一杯引っかけた帰り道。薄暗い通りを歩いていると、「助けてください」と男の声がした。中年男性がいかにもたちの悪そうな若者たちに絡まれている。
「さっさと金を出せよ」金髪の若者がいらついたようにすごむ。
 僕が驚いて見ていると、男は助けを求める視線を送ってきた。
(いや、無理だって。そんなことしたら僕までが親父狩りの被害者になるんだから……)僕は必死になって身振り手振りで伝えようとした。
 すると、若者の一人が僕に気付いてギロッとにらみつけてきた。
 僕は慌てた。いきなり逃げ出すと追いかけられる可能性がある。僕は若者に頭を下げ、拝むように手を合わせて(どうか見逃して下さい)というメッセージを伝えてから逃げ出した。
 それが功を奏したのか、何とか人通りの多い道まで逃げ通すことが出来た。しかし、一息ついて冷静になってみると、僕は自分が情けなくてたまらなくなった。自分に助けを求める人を無視し、ガキに合掌して逃げ出すなんて。
(あんな奴らを叩きのめすヒーローになれたらなぁ)僕はそんな夢みたいなことを考えた。

二日目
 僕はスーパーで買い物をしていた。晩ご飯のお弁当に明日の朝食べるパン、それからポテトチップス。栄養のことを考えて一日分の野菜を使っているというヤサイジュースも買っておくか。
 その時、後ろにいたカップルの話し声が聞こえた。「……スーパーマン……」あぁ、僕のことかな。一人スーパーで買い物をする男をスーパーマンというって聞いたことがあったな。誰が考えたのかは知らないが上手く言ったものだ。
 僕は気付かないふりをして、レジに向かった。だが、少し動揺していたのだろう、レジでお釣りをもらうのを忘れてしまった。
 するとレジの女性が「あのー」と呼び掛けてきた。事なきを得たのは良かったけど、「あのー」はないんじゃなかろうか。僕に存在感がないのは認めるけど、お客様とか「さま付け」で呼んでほしいものだ。

三日目
 昨日のことがあったので、スーパーには行きづらかった。だから僕は晩ご飯を外で食べることにして、近所のファミリーレストランに行った。
「おひとりさまですか」ウェイトレスが尋ねてきたので、少し恥ずかしい気持ちになった。そういえば、一人で外食したりする人を「おひとりさま」って言うらしいな。
 それから席に案内されたのだけれど、これが店の中央の席。周りの人たちから「あの人、おひとりさまよ」とか言われているようで、落ちついて食べることができない。
(窓際の席が空いているんだからそっちにしてくれよ)気が弱くて口に出して言えない僕は、心の中でそう叫んだ。

四日目
 僕が会社で仕事をしていると上司に呼び出された。
「君は今日から社史編纂室で頑張ってくれたまえ」
(これは左遷だ)僕はショックを受けた。
 でも、もともと出世は無理だったろうし、窓際には窓際のよさもあるだろう。僕は前向きに考えることにした。
 ただ、部署の異動はことのほか疲れた。
 誰もいない家に帰ると、つい一人言が出てしまった。
「ああ、肩がこったなぁ。誰か肩たたきしてくれないかな」

五日目
 社史編纂の仕事をしていると、上司から呼び出された。
「昨日移ったばかりで悪いけど、会社の経営がよくないんだ。退職金は少し余分に出すから身を引いてもらえないか」
 僕は断りきれず退職に応じた。
 家に帰って考えると惨めな気持ちになった。
(明日からは電車に乗って再就職活動だ。まったくサラリーマンはつらいよな。大会社の社長なんかは朝ベンツのお迎えが来るってのに。僕にもお迎えが来ないかな)

(了)

久しぶりの公開作は言葉遊びネタ。
主人公の情けなさが気に入っている作品です。
プロフィール

hiratobin

Author:hiratobin
平渡敏(ひらとびん)のブログへようこそ!

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